コオロギはオスしか鳴かない!~虫の音に2000円払った話~
【今週のお題】秋っぽい日々を送ってますか
このブログに遊びに来てくださった方、ありがとうございます。
すっかり秋めいてまいりましたが、風邪など引いていませんか?
先日、わたしが勤めている会社の上司がお客様からキンモクセイの枝木をいただいてきて、今、事務所のテーブルに置かれています。私は毎日、キンモクセイの香りの中、すがすがしい気分で仕事をしております。ですが、先日、会社の社長が「キンモクセイの香りする?鼻近づけても全然しないんだけど…」と尋ねてきました。その翌日から社長は会社を休んでおります(^^;)、最近、社員の中にも「匂いする派」と「しない派」が分かれていて、「しない派」の人たちはちょっとビクビクしています(;´д`)
どうか、風邪にはご用心ください。
今日のお話はキンモクセイではなく、同じ秋を感じさせるコオロギの鳴き声を巡る自分の体験談です。今思っても「高くついたなぁ~」とチト悔しい思いです。では、お目目を拝借!!
「コオロギの音を録ろうよ!俺らで!」
約15年位前の秋も深まった頃、当時の音楽仲間が突然、私にこう言った。
「何に使うんだ!曲に効果音を入れるなら、売ってるCDから入れても分かんねえんじゃね?」と私が答えると、
「それじゃ、だめだろ!効果音CDのはイマイチだったし、俺らでいい音で録ればいいじゃん!」と友人が返す。
二人で改めて効果音CDの虫の音を幾つか聴いたが、確かにどれも「これだ!」と思えるものはなかった。
「かといって外で録音したら必ず、車の音とか電車の音とかも入りそうだからよくないし…。でもこの家の周りの草むらに行けばいっぱいコオロギ取れるだろ?それを捕まえて家の中で録ればいいじゃん!」
当時住んでいた私の家は、近くに田んぼが広がっており、家のまわりには草むらも豊富で、裏山にはタヌキも住んでいる。
「じゃ、今度来るまでにコオロギを何匹か捕まえておいてくれ!頼んだよ。」
そう友人は一方的に私に告げ、自宅へ帰った。
自分もカラ返事をしていたのがいけなかったかもしれない。夜中になって急に目が覚めて彼が言ったことを反芻しているうちに、眠れなくなってしまった。
「どうしよう!軽く返事したけど、コオロギなんてあんなグロテスクなもの怖くて触れないよ!」
女性の多い職場だったが、男性というだけで、ゴキブリやクモが出てきたら退治するのはもっぱら私の役目になっていた。しかし、本当は大の虫嫌いだ。
「どうしよ~。そうだ!あの人に相談してみよう。農家もやっているからなんとかなりそうだ」と閃くと、やっと安心できて眠りにつけた。
翌日、会社の休み時間に私はその人に声をかけた。
「あの~◯◯さん、実はお願いがあるんですけど、お宅の周りでコオロギを取ってきてもらいたいのですが…」
「コオロギ。あぁ~いいよ。でもどうするの」と◯◯さん。
「コオロギの鳴き声を部屋の中で聞きたいんです。虫かごもあるんで、後で渡します。」と私が答えると、
「そうなの?わかった!いいよ。でも、ちょっと時間ほしいなぁ~」と◯◯さんはそれ以上、深い訳も聞かずに快諾してくれた。
3日後、◯◯さんは約束通りコオロギを捕まえてきてくれた。プラスティックの虫かごの中に優に15匹以上はあるかと思うくらいのコオロギたちがひしめき合っていた。
「ありがとうございます。ホント助かりました!」と◯◯さんにお礼をすると、仕事を定時で終わらせ、まっすぐ自宅に戻った。
「間近でこんなにいるのを見ると気持ち悪いな。でもこれで安心して録音ができる。」私はそう思ってその日は早めに床についた。
それから、翌日、翌々日になっても一向にコオロギたちは鳴く気配を見せない。それどころか共食いまで始めてしまい、個体数が減りつつあった。
「ど、どうしよう!鳴かない上に数も減ってきている。どうすればいいんだ」
悩みを抱えながら、翌日また会社に行くと、◯◯さんが声をかけてきた。
「▢▢くん、これ知ってた?」と◯◯さんが昆虫図鑑を見て私に教えてきた。
「コオロギはオスしか鳴かないんだよ!」と◯◯さんはニヤケながら私に告げた。
嫌な予感がした。しかも図鑑はオスとメスの見分け方までちゃんと載っていた。
オスはしっぽが長く、メスは短い。
私はその日も早めに家に帰った。そしてコオロギのしっぽを確認した。
「全部メスじゃん!」私は驚いて、次の瞬間、怒り狂った。
「あのじじい、謀ったな!知ってたらどうして、早く教えてくれなかったんだ!」
私はまず、これ以上のメス同士の共食いを防ぐためにメスのかごの中の数を2匹にし、後は外へすべて逃がした。
「オスを捕まえなければどうしようもない!」私は覚悟を決めた。
翌日、さっそく、家の周りの茂みや石の下など、コオロギが居そうなところを徹底的に
探し回った。コオロギや他の虫を見つけるたびに、私は全身に鳥肌が立っていくのを感じていた。
小一時間くらい家の周りを探し回ると、ついに念願のオスを捕獲した。自分の手のひらのなかで激しく動き回るコオロギの感触に寒気を感じながら、急いでそれを虫かごに入れた。
「やった。なんとかなった」私は安堵した。
それから、2、3日が経過したが、お互い共食いもしなかったが、オスは鳴きもしなかった。挙げ句の果てにはお互いが牽制し合い動きがピタッと止まって動かない時も多くみられた。
「なんか、オスのしっぽがムズムズしているように見えるが、鳴かないなぁ。もしかすると、つがいにしないとダメなのかな?」
これ以上コオロギの数を減らすのは自分にはリスキーに思えたが、なんとなくヤバい状態のような気がしたので、1匹をかごの外に逃がして、つがいにして様子を見ることにした。
翌日、夜勤明けでその日の昼前に音楽を聴きながら寝落ちしていた。
すると、枕元に夢の彼方から心地よい虫の音が部屋中に鳴り響いてきた。
かごの中をそっと覗いてみると羽根をこすり合わせて精一杯鳴いている。
私はしばし恍惚と安堵した安らかな気持ちの中で、寝転がりながらコオロギの鳴き声を堪能した。
その数日後に、あの音楽仲間がやってきて、コンデンサーマイクを使い、気の済むまでそのコオロギの鳴き声を録音した。2人とも満足のいく音源になったのは言うまでもない。
この後、一応録音が無事済んだことを報告し、コオロギを取ってくれたことに感謝をし二千円相当の菓子折りを渡した。
「悪いね~。結局、俺が取ったのはメスしかいなかったんだけどね」と少し照れ隠しではにかんだような笑顔を見せた。
正直、私もお返しをするのに何となく・・・ていうか、かなり違和感を感じた。
「結局、自分が捕まえたコオロギが泣いたんだけどなぁ…」
さっきも風呂に入りながら、コロコロと鳴くコオロギの鳴き声を聞いた。
「だんだんと、か細く鳴く間隔が短くなってきたなぁ…」と私は思った。
後で、ネットで調べたら、気温が低くなると段段と鳴く間隔が短くなって、しまいには鳴かなくなるのだそうだ。当時はネットで調べることもできず、捕獲から餌やり、かごの中の管理などもすべて手探りだったが、だからこそ、今こうして顛末をブログにネタとしてあげられるのかもしれない。
いかがでしたでしょうか。コオロギの鳴き声にかかった費用は二千円だけではなかったのですが、あの夕暮れの秋の空気の中でのコオロギの音は最高だったと思います。まさにコオロギの息遣いまでもが感じられた贅沢な虫の音でした。あれから月日は流れましたが、残念ながら虫自体は苦手なままです。